『ピストルライターの撃ち方』感想|原発事故が再発した土地で「未来のない今」を生きる人々(ネタバレあり)

★★★★★2.5
原題
ピストルライターの撃ち方
監督
眞田康平
出演
奥津裕也、中村有、黒須杏樹
公開
2023年6月17日
上映時間
118分分
鑑賞
配信
⚠ この記事にはネタバレが含まれます。未見の方はご注意ください。
※ 自殺の描写があります

ひとことで言うと

再び原発事故が起こった近い未来の福島を舞台に、社会の底で生きる人々を描いた作品。見終わったあと「これはどこまでリアルなのか」と考え込んでしまう一本でした。

どんな映画か

描かれるのは、表のニュースにはまず出てこない裏社会。主人公の周りにいるのは、超低賃金で働き、ほとんど住む場所もないような人たちです。名前も知らない者同士が同じ部屋で雑魚寝をする。その生活がリアルな手触りで映されます。

印象に残った場面(ネタバレ)

一番重かったのは、彼らが唯一開いた宴席の翌日のエピソードです。仲間の一人が自ら命を絶ち、主人公はその遺体を埋めに行くことになる。束の間のにぎやかさのすぐ後に、何の救いもなく死がやってくる。この落差に、彼らの置かれた状況が凝縮されていると感じました。

本当にこんな世界があるのか

フィクションだとわかっていても、どこまでが作り話でどこからが現実なのか、境界が曖昧になってきます。「こんな世界が本当にあるのか?」という問いが、見ている間ずっと頭から離れませんでした。登場人物たちには、未来という言葉がまったく当てはまりません。ただ今日をやり過ごしているだけ。その閉塞感こそがこの映画の核だと思います。

気になった点

それは、裏社会の描写に寄りすぎていること。原発事故後の土地で、普通に暮らす人々の姿の描写があれば、裏社会との対比がはっきりして、主人公たちの孤立がより際立ったかなと感じました。

そして、息を抜ける場面がほとんどないこと。ずっと陰鬱な展開が続く。ほっこりする場面も、あることにはありますが、ほぼないと感じてしまいました。

同じく裏社会や暴力を描く北野武監督の作品には、くすっっと笑ってしまう間の抜けた瞬間があります。その笑いがあるからこそ、暗い場面がより刺さる。この映画にはそれがなく、ひたすら不幸が続くので、途中でお腹いっぱいになってしまいました。

さらに、物語が最初から不幸の底にあることも辛かった点です。だんだん転落していくのであれば、見る側も「どこで道を誤ったのか」などを一緒に考えられます。しかし、最初から光がまったく見えません。登場人物たちがなぜこんな人生に行き着いたのか、その過去が少しでも描かれていれば、彼らをもっと身近に感じられたかなと思いました。

最後まで分からなかったこと

説明が省かれすぎていて、正直なところ理解できない場面がいくつもありました。

  • 主人公がヒロインと一夜を過ごした翌朝、目覚めた彼の顔の横に流れてきた水たまりは何だったのか
  • ほとんど喋らない男は何者なのか。実在の人物なのか、それとも幽霊のような存在なのか
  • なぜ2人は死を選んだのか。特に達也は、何がそこまで彼を追い詰めたのか

観客に解釈をゆだねる作りなのでしょう。ただ、ここまで説明がないと、置いていかれたまま映画が終わってしまいます。見終わった人と「あれは何だったのか」を語り合いたくなる映画です。

あの水たまりが意味していたもの(私の解釈)

作中では、不法投棄に手を染めた者たちが、のちにその近くを流れる川の水を口にします。その水源のそばには、彼らが捨てたものと同じような放射性物質があった。自分のしたことが、形を変えて自分に返ってくるわけです。

そう考えると、主人公が目覚めたときに顔の横へ流れてきた水も、ただの水ではなかったのかもしれません。この土地の汚れであり、彼らの罪であり、そして静かに近づいてくる終わりの気配。説明がない分、あの一瞬の水がこの映画で一番雄弁だったように思えます。

こんな人におすすめ

  • 原発事故後の社会を、ニュースとは違う角度から見たい人
  • 救いのない人間ドラマに向き合える人

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